ESSAY

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随筆

科学に必要なこと

10年前「イナバゥワー」と共に「品格」が新語・流行語の年間大賞を受賞しました。
イナバゥワー(Fig.1)はアイススケート金メダルリストの荒川静香からで、品格はベストセラー『国家の品格』によります。
著者藤原正彦氏は日本の数学者でお茶の水女子大学名誉教授です。学者の研究姿勢について「数学者にとってもっと大切なことは、芸術に感動したり自然を愛したりする気持です。
それが大きな仕事を生むエネルギーとなります」と述べております。とても響きがあり重みが感じ取れました。
私事恐縮ですが、私は母校を卒業後、基礎歯科系の解剖学教室に長年在籍しておりました。
主任教授は「研究はセンスだよ。センスの有無が優れた論文を仕上げるのだよ」と。しかし人との付き合いが苦手で、ネズミいじり(・・・)が趣味でしたのでセンスは意外でした。固有のセンスを磨き上げるのに有益なアートやとは無縁だったからです。
しかし語学が堪能で、海外で視察や国際学会があると訪問国の言語を勉強していました。外国語を習得することは異文化を獲得するセンスが磨けるということでしょうか。
閑話休題、私は藤原氏の芸術観を重く受け止めています。
とりわけ音楽が有するパワーは、年若いミュージシャンの集客力や経済効果を見ましても、とてつもなく大きいからです。
趣味が音楽の私は、知らず知らずのうちに体内にその力が蓄えられたからなのでしょう。人付き合いにせよ仕事にせよ幸運な巡り合わせをもたらしたと思われることがしばしばだからです。芸術・文化はホモサピエンスのビタミンといえます。
しかしSTAP細胞で名を馳せた小保方晴子さんが投稿した英国の学術雑誌ネイチャーに、芸術すなわち音楽に関してやはり疑わしい論文があります。
1993年のカリフォルニア大学の心理学者が主張した「モーツアルト効果」です。学生たちにモーツアルトのピアノソナタを聞かせると頭が良くなったと発表しました(Fig.2)。
その曲を聞かせたグループと聞かせないグループに分けたらテストの結果に差があったと。
総合学術雑誌とはいえ、論文として投稿するにしては実験系が短絡的です。そもそも、なぜ「モーツアルト効果」の検証を試みたのかが疑問です。歴史上の人物は、こぞってモーツアルトを賞賛していますが頭が良くなるとは言っていません。
神童といわれた希代の音楽家の作品の効果を数値化して、権威ある学術誌に載せれば世界から注目を集め、自己のステータスに輝きをもたらすのは確かです。
研究の成果はともかく、アメリカのあるミュージシャンは「The Mozart Effect」を商標登録しました。モーツアルトは商業的に利用され、日本のクラシック音楽関連の企業は、その効果を鵜呑みにして受験生やそして胎教にも有効だと唱えました。
芸術作品は芸術(・・)商品(・・)に置き換えられたのです。藤原氏の唱える科学に必要な美芸術的観照とは異なるようです。
その後1999年ハーバード大学では「モーツアルト効果」はモーツアルト以外の音楽にもあることが、反対に他の大学では音楽にはそのような効果はないことが同誌に報告されました。芸術の価値は科学では証明されません。
それにも拘わらず研究者間の論争は21世紀になっても続けられています・・・一体全体、研究とはなんぞや?
Fig.1:イナバゥワーフェチの荒川静香が見た天橋立。日本三景のひとつ。細長く延びた松林を逆さまに見ることで一瞬天にかかるような情景を愉しむことができます。金メダルはその結果です。まとも(・・・)に(・)滑っていたら審判員の表情が気になったのでは。
Fig.2:品格のあるモーツアルトを奏でる5歳までドイツ育ちの乃木坂46生田絵梨花19歳。もともと頭脳明晰なスーパーアイドル。ピアノは東京都大会優勝。保有資格は実用英語技能検定2級、日本漢字能力検定準2級他多数。プロはCDの売上が気になり音が濁ってしまう。
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