医療法人社団 栄桜会 杉の木歯科医院 SUGINOKI DENTAL OFFICE

千葉県富里市で保険診療、インプラント、アンチエイジングに取り組む地域密着型の歯医者、杉の木歯科医院のブログ

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随筆

クララ・シューマン

紙幣は偽造防止に髭を蓄えた男性の肖像が多くあるが、最近は印刷技術が発達したので一万円札は、かの聖徳太子に代わり髭のない福沢諭吉が登場している。だが、世界の紙幣には女性がしばしば登場している。英国のエリザベス女王 やナイチンゲールは周知の通りで、デンマークは5券種のうち4券種が女性で、中国でも多くの女性が占めている。だが音楽の世界に目を向けると、ドイツの100マルク紙幣のクララ・シューマンが唯一であることは興味深い。クララは作曲家ロベルト・シューマンの妻で、最初の女流職業ピアニストである。


 19世紀のヨーロッパではピアノをたしなむことは上流家庭の習わしであった。ロベルトはクララのピアノの家庭教師を通じ知り合った。彼はどこか夢見がちで生活力の乏しい青年であったので、クララの父親の猛烈な反対の末での結婚であった。今日、シューマンが世界に名を馳しているのはクララが夫の作品を世間に広しめたからで、彼の作品は必ずしも優れた物ばかりとは限らない。シューマンは、捨てがたいような小さな情緒の閃きを端的にすくい取る。だから小品には味わい深い作品が多い。有名なピアノ曲トロイメライ(独語で夢)や歌曲、ミルテの花(婚礼の花冠)がそれである。一方、大きくまとめなければならない大作は、感受性が先行し基本的な形式から逸脱して冗漫といえる。
 だから、音楽を通して芸術や人生の深淵をとらえるには音楽構成に注ぐ生命力に欠ける。そのことが彼を追いつめ、精神に異常をきたしライン川に入水する。37歳で未亡人になったクララは父から勘当を受けた身の上。残された8人の子供を養うためにピアノのプロになり、同時に世間に夫の作品を紹介した。ピアニストとプロデューサーの二股を掛けたのである 。現代でも音楽作品が流行るのは作品の良否はもとより、その時代背景にも影響される。流行は、言葉だけであって中身はバブルの側面を持つから、作品の内容よりもマスコミにプロデュースする力量が先行する事実も否めない。
 ロベルトはクララの父親から、そして自分自身の才能からも過小に評価され、崇高な作品の追求が自らを死に追い詰める。だが、たぐい希な女性音楽家の紙幣の肖像になったクララは76年の生涯の中で愛するにも、そしてそれを貫くにも信念と勇気が必要であることを音を介して聴衆に示すことができた。それは亡夫ロベルト・シューマンが望んでいた世界にほかならない。